ドイツから歴史と公共を考えるブログ

AIと歴史を書くゼミ – ChatGPT時代のヒストリオグラフィーを考える授業に参加してきた

  
AIで歴史を書くゼミ
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AIと歴史を書くゼミ – ChatGPT時代のヒストリオグラフィーを考え...
ペコ
ペコ
Guten Tag! ドイツでママ大学院生をやっているWebライターのあさひなペコです🐣

今回は、2025年夏学期にカッセル大学で開講されたゼミ「Geschichte schreiben mit ChatGPT(ChatGPTで歴史を書く)」について、受講メモをかねてゆるっとまとめてみます。

タイトルからしてインパクト抜群なんですが、中身はというと「AIと歴史学の関係を徹底的に考える」という超・現代的な内容。

ChatGPTを例に、AIがどんなふうに歴史を“読む”のか、どこまで史料を理解しているのか、そしてAIが作る歴史的ナラティブにはどんな危うさが潜んでいるのか。

そんなテーマを実際に検証していく授業でした。

ゼミの概要:AI×歴史=新しいヒストリオグラフィー

この授業のモットーは、「デジタル技術と歴史学の“関係”を批判的に見つめ直す」です。

近年のAIブームを受けて、ChatGPTのようなテキスト生成モデルが“歴史を書く”ことにどんな意味を持つのかを実践的に探る、というものです。

授業ではこんな問いを中心に議論しました👇

  • AIが歴史的テーマをどのように扱い、史料をどう“読む”のか?

  • 生成されたテキストは、どこまで「歴史」と呼べるのか?

  • AIの使い方次第で、歴史叙述はどんなバイアスを生むのか?

特に印象的だったのが、「Fake History(偽の歴史)」を扱った回。

AIがつくる“もっともらしい嘘の歴史”を題材に、「私たちは何を“信じた”ときに、歴史を理解したと思うのか?」という問いをめぐって、白熱したディスカッションが多々ありました。

ゼミのねらい(ペコ意訳)

教授いわく、このゼミの目的は単なる「AIの使い方」ではなく、AIと“どう付き合うか”を考える訓練

内容的な目標

  • 歴史研究とAIの接点を理解する(検索・分析・表現まで)

  • 「AIが得意なこと/苦手なこと」を見極める

  • 史料批判と倫理観を持ってAIと向き合う

💻 スキル的な目標

  • ChatGPTなどが生成するテキストを批判的に読む力を養う

  • どの部分がAIの“思い込み(バイアス)”かを見抜く

  • AIを使ってデータを分析したり、結果を検証する方法を体験する

💭 倫理的な目標

  • 「AIが作る“知”に責任はあるのか?」という問いに向き合う

  • 歴史を“語る権利”=Deutungshoheit(解釈権)を誰が持つのか考える

  • 研究者としての誠実さ・透明性をどう保つか議論する

ペコ
ペコ
初期からWEBライターとしてチャットGPTを使用してきたから、本当にもう、色々考えさせられる内容でしたよ!

歴史を「理解する」とは? Hermeneutik(解釈学)との出会い

初回は「理解とは何か?」という哲学的テーマからスタート。

Roscher先生いわく、歴史研究とは“事実の収集”ではなく“解釈の連鎖”。

ここで登場したキーワードが「ヘルメノイティク(解釈学)」。

つまり、私たちは“意味”を読み取る存在であって、AIのようにただ言葉を統計的に並べるだけではない、という立場です。

でも同時に、「AIもまた、私たちの“理解の鏡”になるかもしれない」という逆説的な議論も。

ChatGPTに歴史を語らせると、“ありそうだけど違う”部分が目立つ。

その“ズレ”が、人間の理解の輪郭をかえって浮かび上がらせるんです。

「ChatGPTは理解できない」? Hiltmannのデジタル・ヘルメノイティク

ある授業では、Torsten Hiltmann氏の論文を読み、「デジタル・ヘルメノイティク(Digital Hermeneutics)」という概念を学びました。

彼の主張をざっくりまとめると👇

人間は「意味」を理解するが、AIは「記号」を処理するだけ。

しかしその“ズレ”こそが、現代の理解学の新しい出発点になる。

授業では、AIに中世の史料を読ませてみる実験も。

ChatGPTは古語をある程度解釈できても、歴史的文脈や文化的背景までは“理解”できないことが判明。

つまり、「意味をつなぐ」作業は、やっぱり人間にしかできないってことです。

ペコ
ペコ
AIに完全に仕事を取られる未来はまだまだ先っぽいね。

Kontrafaktische Geschichte(対抗事実的歴史)とAIが生み出す“ありえた歴史”

別の回では、「もしもナポレオンがロシア遠征に勝っていたら?」といった仮想歴史(Kontrafaktische Geschichte)をAIに書かせる演習もありました。

ペコ
ペコ
いわゆるオタク大好きIfストーリーですね!

AIが生成する物語は一見もっともらしいけれど、史料の裏付けや因果関係の理解が欠けている。

つまり、“説得力はあるのに根拠がない歴史”ができてしまうんです。

ペコ
ペコ
でもこの演習を通して、「人間は“どんな物語を信じたいか”で歴史を読んでいる」ということに気づかされました。

Fake Newsと歴史的「真実」——AI時代の史料批判

近年のFake News問題もゼミの重要テーマのひとつ。

Roscher先生いわく、

「史料批判は、いまやAI時代の“メディア・リテラシー”だ」

とのこと。

AIが生成する“もっともらしいけど間違った”テキストをどう見抜くか?

学生同士で討論し、ChatGPT自身にも判定をさせてみたのですが、正答率はまさかの五分五分……。

ペコ
ペコ
これは私も騙されてしまった……

結論として、AIはフェイクを見抜けない

だからこそ、人間の“批判的読み”がますます重要になるってことです。

まだまだ人間の未来がありそうでよかった。

倫理の話:AIを使ってレポートを書くのはアリ?

後半では、Oliver Bendel先生の「情報倫理」を題材にディスカッション。

テーマはずばり、「ChatGPTでレポートを書くのは倫理的にOK?」w

やっぱり意見は真っ二つに分かれました。

  • “AIはツールだからOK”派

  • “理解を代行させるのはNG”派

ペコ
ペコ
私は圧倒的ツールだからOK派です! 

最終的な結論は、「AIに書かせるのは自由。でも“理解”を任せてはいけない。」です。

ChatGPTは“筆を持つ助手”にはなれるけど、“考える主体”にはなれない——そんな共通認識が生まれました。

ペコ
ペコ
AIを正しく理解して、ツッコミになれば、上手に向き合えるってことだ!

まさに以下の記事につながる内容なので、ここまで読んで、AIと歴史に関するトピックに興味が出た人はぜひ↓

終わりに:AIと歴史家が“共著”する未来へ

このゼミを通して感じたのは、AIは「歴史を奪う」存在ではなく、むしろ「歴史の語り方を再考させる」存在だということ。

人間が持つ文脈感覚・倫理観・語りの力こそ、AI時代のヒストリオグラフィーを支える核になる。

ペコ
ペコ
私はAIに対する徹底的ツッコミ役に徹しながら、これからも「AIと一緒に考える歴史の書き方」、ゆるく追いかけていきたいと思います( ´艸`)

最後まで読んでくれてありがとダンケ!

あさひなペコ

    

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